急速にデジタル化するブラジル
新型コロナが引き金に・・
新型コロナのパンデミックにより、ブラジルでは行政サービスのデジタル化が急速に進んでいます。
ブラジル政府は数年前から工程表を作ってデジタル化する計画を着々と進めてきましたが、そこに降って湧いたのが今年の新型コロナのパンデミックでした。それによりブラジル政府は、まだ途中段階にあった多くの計画を前倒しで一気にリリースしています。
下のジェトロの記事では、6月5日の時点で150以上の公共サービスとなっています。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/06/2cb411f616a91fcd.html
下の記事は9月10日時点のものです。それによると、パンデミック以降デジタル化された公共サービスは900以上とのことで、6月5日時点と比べ6倍増となっています。この数字は決して伊達ではなくて、ブラジルで生活している実感としてもデジタル化の波をひしひしと感じています。
https://www.dci.com.br/economia/servicos-digitais-e-documentos/14928/
では具体的に、どのようなサービスがデジタル化・オンライン化されたのでしょうか?
以下、代表的なものだけピックアップします。
デジタル化された主なサービス
- RG(国民IDカード)
- CPF(納税者番号カード)
- Cartão Nacional de Saúde(国民健康保険証)
- Carteira de Trabalho Digital(労働手帳)
- CNH Digital(運転免許証)
- Licenciamento de Veículo (CRLV)(自動車登録証明書)
- Meu INSS(社会保障)
- eSocial Doméstico(社会保険料)
- FGTS(政府の退職基金)
- Auxílio Emergencial(新型コロナ緊急経済対策金)
見てお分かりのように、どれもこれも国民生活に直結する重要なものばかり。これらの書類がスマホのアプリにダウンロードして正式な証明書として使えるほか、手続きについてもほとんどがインターネットで完結するのです。一年前と比べても隔世の感があります。
日本で重要書類とされている戸籍謄本(抄本)や住民票が入っていないのは、ブラジルにはそういった制度自体が無いからです。話は変わりますが、戸籍制度があるのは世界でも日本だけで、時代遅れも甚だしい制度です。離婚した場合の子供の親権問題など大きな弊害がありますし、親子関係や婚姻関係の証明は他のもっと簡便な書類で代替させることも可能です。また、住民票も公共料金の支払証明などで代替可能です。
噴出する諸問題
もちろん、これだけ多くのサービスをきちんと検証することなく見切り発車的にリリースしてしまったため、問題も一気に顕在化しています。
主なものを並べると、
- サービス毎にアプリが異なるために多くのアプリが必要になる
- そもそも申請段階で何らかのバグにより手続きが止まってしまう
- ITリテラシーの低い人(高齢者や低所得者)にとってはハードルが高すぎる
どれを取っても「まぁそうなるよねw」としか言いようのないものばかりですね。
国民の不満も溜まっており、たまにニュース番組で怨嗟の声を聞くこともありますが、マスコミは割と淡々と伝えるのみで、煽ったり炎上するようなことはありません。ブラジル人はこういった不便には慣れっこになっているというのも大きいかな。
ブラジル政府は新型コロナパンデミックによる特例として、運転免許の更新など有効期限のあるものに関しては、その期限を無期限にする措置を取っており、そのことが奏功している面もあります。
それにしてもブラジル政府は堂々としたもので、不具合があろうが、不満をぶつけられようが、微動だにせず、更にサービスのリリースを加速させています。不具合があれば改善していけばいい。ITリテラシーのない人は、リテラシーのある人に教えてもらってくれ、というようなスタンスで一貫していて、完全に上から目線。利用者に媚びるようなことは一切ありません。この思い切りの良さは、ある意味日本も見習うべきだと思います。
日本政府はブラジルに学べ
ちょうどタイミングよく下の記事を見つけたので貼っておきます。ブラジルと比べて、日本のスピード感の無さに愕然とします。
https://www.netdenjd.com/articles/-/239594
日本政府のデジタル化やオンライン化の最大の問題点は、仕事を随意契約でITゼネコンに丸投げしてしまうこと。その結果、第三者には解読できないようなコテコテの独自仕様でシステムが構築されてしまい、もう他社に発注できなくなる。昔と違って現在は優れた汎用技術が沢山あるので、積極的にそれらを利用すべきだ。そうすることで工程や工期を劇的に短縮できるし、費用も大幅に下げられる。
また、野党やマスコミに配慮するためか、日本ではどうしてもセキュリティを過剰に施したシステムになってしまう。セキュリティと使い易さはトレードオフでもある。普及させるには使い易さが鍵となり、セキュリティレベルを下げる必要も出てくるだろう。
菅政権になってから、デジタル庁の設置などデジタル化の方向に舵を切ったのはとても良い流れ。問題は複雑でそう簡単ではないが、乗り越えて行って欲しいものです。その際、ブラジルのデジタル化は充分に参考になるものと確信しています。
個人的な体験談
ちょうど僕のブラジルの運転免許証(CNH)が8月に更新期限を迎えました。
これまではDETRAN(陸運局)に出向いて手続きする必要がありましたが、今では更新手続きはオンラインですべて完結します。運転免許証は、デジタル免許証と印刷された免許証の2種類を受け取ることができ、どちらも正式なオリジナルとして通用します。手続きの流れは下記参照。
運転免許証更新手続き(ブラジル)
- DETRANのサイトにアクセスし更新申請、同時に法定医師の診察を予約する
- 法定医師の診察(視力検査など)を受け、診察費用を払う
- 銀行で免許更新費用を払う(オンラインでも可)
- スマホに専用アプリをダウンロードしログイン
- 「デジタル運転免許証」をアプリ経由でダウンロード
- 自宅宛に印刷された「運転免許証」が郵送される
僕の場合、1番~4番まではとてもスムーズで、なんか凄いなーと密かに感動していました。
ところが5番の「デジタル運転免許証」のダウンロードがいつまで経っても出来ません。一週間が経った頃までは「まぁブラジルだからな~」と呑気に構えていましたが、2週間が経ち、流石に堪忍袋の尾が切れて、DETRAN(陸運局)の業務を代行しているPoupaTempo(ポウパテンポ)を最短でなんとか3週間後に予約しました。PoupaTempo(ポウパテンポ)というのは市役所の出先機関のようなもので、多くの行政手続きはそこでできる他、DETRAN(陸運局)の窓口業務なども一括して委託されています。パンデミックのため予約制となっており、どうやら苦情が殺到しているようで直近の予約はほぼ取れませんでした。
予約してから3週間が経ち、ようやくPoupaTempo(ポウパテンポ)で問題を解決してもらう日が来ました。この時点で手続きのすべてがオンラインではなくなるが、まぁブラジルだし、それはいい。解決さえできればノー・プロブレムだ。
暫く待合室で待っていると自分の番号が呼ばれた。担当の中年女性に、これまでの経緯と、どうしてもデジタル免許証がダウンロード出来ない旨を伝えると、衝撃の返事が返ってきた。
なんででしょうね~。ウチではちょっと分かりかねます。もう少し待ってみるか、DETRAN(陸運局)に苦情のメールを送ってみてはいかがでしょう。
いや、だから、そのDETRANの業務を代行しているのがココですよね。ココで解決してもらわないともう方法がありません!お願いですからm(_ _)m
ウチでは無理。毎日クリックしてたらそのうちダウンロードできるようになると思いますよー♡
んな訳ないやろ!
こ、これはアカン。もう脳味噌が沸騰寸前だ。
そうか、テレビで観た文句を言っていた人たちはこういう目に遭っていたのか。思わず、見知らぬ彼らとの連帯感が芽生えた瞬間だった。
敗北感にうなだれながらPoupaTempoを後にした僕は、ふと名案を思いついた。そう、大本のDETRAN(陸運局)に直接行けば何とかなるかもしれない。希望が蘇った。
ほどなくDETRAN(陸運局)に到着。駐車場にはそれなりに車が止めてあることから、職員が仕事しているのは間違いない。
が、入り口の門は固く閉ざされ、鎖まで巻きつけてある。インターフォンも見当たらない。しょうがないので周りをグルっと一周したが、他の入り口も同様。もう完全に誰も寄せ付けない陸の要塞と化していた。市民の受付業務はすべてPoupaTempoに業務委託しているのは知っていたが、ここまで来客を徹底的に拒否しているとは・・・
誰一人見つからない中、ようやく警備員を見つけた。
PoupaTempoに行っても問題が解決しないからココに来た。入れてもらえないかな?
ココは受け付けてないよん。PoupaTempoに行ってくれ。
そこで解決しなかったからココに来たんだって。中に人いるよね。
そうか、可哀想に。でも残念ながら誰も入れられないんだ。
ちーーーーん。試合終了。
さて、どうしよう。やるべきこと&できることは全部やったのに何も解決していない。
まぁでも特例措置で運転免許の有効期限は無期限になってるから当面は問題ない。あとは、ある日突然ひとりでに解決する可能性に賭けるしかないな。「果報は寝て待て」と言うじゃないか。
そして更に1ヶ月が経過、免許更新手続きを始めてから既に2ヶ月以上が経っていた。毎日毎日クリックするものの当然のようにダウンロードには至らず、何も解決していない。郵送されるハズの「運転免許証」も一向に着かないことから、やはりシステムのバグにより手続きが途中で止まっているに違いない。コロナも下火になってきているし、いつ特例措置が解除されるかもわからない。これはマズイ。お尻に火がついた。
火事場の馬鹿力とはこのことで、そこから数少ない友人関係をしらみつぶしに当たり、友人の知り合いの知り合いのそのまた知り合いにDETRAN(陸運局)の職員がいることを突き止め、無理やりに頼み込んでなんとか力技で解決に至った。これでまた一歩、ブラジル人に近づいたかな。(ΦωΦ)フフフ… ちなみに不具合の原因は、やはりシステム上の小さなバグでした。
以上は僕の体験談ですが、このおよそ2ヶ月間のストレスは半端なかったです。おそらく同じようなケースは山のようにあるはず。ブラジル人であっても力技が使えない人も沢山いるでしょう。このように、ブラジルのデジタル化は不具合と問題だらけといっても過言ではありません。
しかし、だからといって僕はブラジル政府が進めているデジタル化には反対ではなく、むしろ大賛成です。大規模なソフトウェアやシステムにバグは付き物。早くリリースすることで早めにバグを顕在化させ修正することが可能になります。今回は新型コロナにより見切り発車的にリリースしてしまったために問題が多発していますが、トータルでみた場合、やはりバグを恐れずにリリースすることこそが正解だと思います。多くのブラジル国民もそのように思っているに違いありません。