医者の健康本のほとんどはゴーストライターが書いている

ゴーストライターの是非については賛否両論あります。ゴーストライターも一応プロの書き手である以上、書くことを商売にしていない医者や芸能人よりも文章自体は格段に上手いからです。出版者がゴーストライターを使いたがる理由はそこにあります。資本主義の世界では「売れてなんぼ」。まぁ仕方無い面もあります。

問題はゴーストを使うことではなく、著者にも理解出来ないほどの捏造が頻繁におこなわれることです。特に健康本では"捏造"や"誇大表現"のオンパレードが常態と化している感があります。無闇に信用せず、常に疑いの目を持つことが大事です。

健康関係の本は、、本屋さんの棚にめじろおしに並んでいます。健康上、なにか問題をお持ちのかたが、こういう本を五冊も六冊もおもとめになることがめずらしくないようです。わたしは、そういうことをおやりのかたから、電話や手紙をいただいて、その経験を聞かされているのです。

ふつう、健康の本の著者は、まずお医者さんです。しかし、なまえはお医者さんでも、書くのはたいていゴーストライターといわれる人たちです。お医者さんが自分でペンを持つケースはきわめてまれなことで、わたしはたった一つしかその例を知りません。

お読みになった方がおありかどうかわかりませんが、一時期、わたしはよく雑誌の取材を受けました。取材記者というものは、一種のゴーストライターです。雑談をもとにして記事を書くわけです。じつは、わたしの言ったことが、まともに受け取られたことは、一度もありませんでした。わたしは、それを見ると腹が立つので、掲載誌は見ないことに決めています。

あるとき、事典の取材を受けました。これは、雑誌とちがって後に残るものでもあり、長いものでもあったので、原稿ができたらそれを見せてくれといっておきました。送ってきたものを見ると、それがあんまりひどいものだったので、わたしはこんなものはだめだといってやりました。

すると出版社は、別のゴーストライターをよこしました。それは、いかにもベテランとみえる中年の女性でした。わたしは、その人に、『老化に挑戦せよ』というタイトルの本を書くことになっているということをいいました。すると彼女は、それを自分に書かせてくれといって、わたしを驚かせました。そのとき彼女は、資料を貸してくれとも何ともいわなかったのです。

友人のK博士の場合は、こうです。彼はゴーストライターの前で、一時間あまり話をして、テープレコーダーにそれをおさめました。それから彼は、アメリカの有名なビタミンの本の翻訳書を一冊渡して、これを見てやってくれといいました。こうして、K博士のビタミンの本はできあがりました。

わたしの友人に、有能な新聞記者の古手がいます。彼は今プロダクションをやっているのですが、その部屋の本棚には、健康関係の本がぎっしりつまっています。わたしは、それをみて、参考書かとたずねました。すると彼は、みんな自分が書いたのだといいました。

新聞に出たことですから、ごぞんじの方も多いと思いますが、いま出版される単行本の40%は、ゴーストライターの手になるといわれます。健康関係のものは、とくにその割合が大きいのです。

【三石巌『健康自主管理と食品の常識』より抜粋】